運動前のストレッチといえば、昔は「筋肉を伸ばして、しっかり柔らかくしてから運動する」というイメージが強かったと思います。
最近では逆に、
「運動前は動的ストレッチ」
「静的ストレッチは筋力が落ちるからやらない方がいい」
という話をよく見かけます。

じゃあ運動前は、とりあえず動的ストレッチをやっておけばいいってこと?

そこがちょっと違う。大事なのは“動的か静的か”より、何のためにやるかなんだ。
私は理学療法士として患者さんの運動を見ていますが、静的ストレッチをしてからリハビリを始めることは普通にあります。
一方で、これから全力で走る人、競技をする人に対して、同じ準備をするとは限りません。
求めているものが違うからです。
この記事では、
- 動的ストレッチとは何なのか
- 静的ストレッチは本当に運動前にダメなのか
- 動的ストレッチでよく見る間違い
- ランニング・野球・サッカー・バスケ・バレーでは何を選べばいいか
を順番に解説します。
ただし、種目名を覚えることがゴールではありません。
最終的には、
「このあと自分はどう動くのか?」
そこから逆算してウォームアップを考えられるようになることが、この記事のゴールです。
- 動的ストレッチとは?静的ストレッチとの違い
- 「動的ストレッチをしているつもり」になっていませんか
- 運動前に動的ストレッチが使いやすい理由
- じゃあ運動前の静的ストレッチはダメなの?
- +ONE|身体が冷えているとき、いきなりストレッチから始める?
- 目的別|運動前に取り入れやすい動的ストレッチ
- ランニング前|レッグスイング
- 野球前|ウォーキングランジ・ウィズ・ローテーション
- サッカー前|オープン・ザ・ゲート
- バスケ前|コサックスクワット
- バレー前|インチワーム
- いちばん大事なのは「ストレッチの次」
- なぜ「本番に近い動き」に近づけるの?
- ストレッチをすればケガを防げる?
- 結局、運動前はどうすればいい?
- まとめ|動的ストレッチは「本番への途中」にある
- 参考文献
動的ストレッチとは?静的ストレッチとの違い
動的ストレッチは、自分で身体を動かしながら関節の可動域を使っていくストレッチです。
2025年のシステマティックレビューでは、動的ストレッチは筋収縮を伴いながら関節をコントロールして動かし、最終域で保持しない方法として整理されています。
一方、速い動きやバウンドを利用するバリスティックストレッチとは区別されています。また、動的ストレッチでも直後の柔軟性・関節可動域が改善することが報告されています。[1]
対して静的ストレッチは、筋肉を伸ばした位置で一定時間保持する方法です。


じゃあ動的ストレッチは、とにかく動けばいいの?

いや。実際には“動いているだけ”になっている人もかなり多いよ。
「動的ストレッチをしているつもり」になっていませんか
ここは、私が実際に人の動きを見ていて特に気になるところです。
よくあるのが、
動きが小さすぎる。
「動的だから動いていればいい」と思っているのか、股関節を動かしたいのに脚がほんの少ししか動いていない。
反対に、
動きを大きくしようとして、身体全体が動いてしまう。
というケースもあります。
たとえばレッグスイングで脚を高く上げようとして、骨盤が大きくひねられたり、体幹まで後ろへ倒れたりする動きです。
見た目では脚が高く上がっています。
でも、
狙っていた股関節が、それだけ動いているとは限りません。


脚を高く上げることより、“どこから動いているか”を意識してみよう。
動的ストレッチでは、
可動域の大きさだけでなく、狙った関節をコントロールして動かすこと
が大切です。
最初は小さくても構いません。
コントロールできる範囲から始めて、少しずつ動きを広げていきましょう。
運動前に動的ストレッチが使いやすい理由
では、なぜ運動前には動的ストレッチがよく使われるのでしょうか。
ひとつの理由は、関節を動かしながら、その後の運動につなげやすいことです。
2023年に35研究をまとめたネットワークメタ解析では、動的ストレッチは対照条件と比較して、カウンタームーブメントジャンプなどの爆発的パフォーマンスを改善する結果が報告されています。ただし、効果は実施時間や対象者などによってばらつきがあり、「動的ストレッチをすれば必ずパフォーマンスが上がる」とまでは言えません。[2]
さらに2026年に発表された国際エキスパートコンセンサスでは、ウォームアップは単なるストレッチではなく、一般的な運動・競技に特異的な運動・必要に応じたコンディショニング活動を組み合わせるものとして整理されています。
また、競技や個人に応じてウォームアップの内容を変えることも重要とされています。[5]
つまり動的ストレッチは、
「身体を動かす準備」から「これからする運動」へつなぐ途中に使いやすい。
ここが大きなポイントです。
じゃあ運動前の静的ストレッチはダメなの?
ここは極端に考えない方がいいと思います。
結論は、
運動前の静的ストレッチ=禁止ではありません。
2024年、83研究・2012人をまとめたメタ解析では、静的ストレッチ直後の最大筋力には小さな低下が確認されました。
特に、1回60秒以上の長い静的ストレッチでは影響が大きくなりました。
しかし、ジャンプやスプリントなどを含む実際の運動パフォーマンス全体では、静的ストレッチによる明確な悪影響は確認されませんでした。
研究者らも、ジャンプやスプリント前のウォームアップから静的ストレッチを一律に排除することを支持していません。[3]
一方、静的ストレッチが柔軟性を高める効果はかなり明確です。
189研究・6654人をまとめたメタ解析では、静的ストレッチによって、1回行った直後の柔軟性と、継続した場合の柔軟性の両方が改善しています。[4]

「静的ストレッチをしたら筋力が落ちるから絶対ダメ」っていう話は、ちょっと極端なんだ。

そう。何を目的にして、どれくらいやって、そのあと何をするのかまで考えた方がいい。
病院でリハビリをしている患者さんなら、
「まず硬さを減らして動きやすくしたい」
ということもあります。
そういう場面では、私は静的ストレッチを使います。
一方、
「これから全力で走る」
「これから試合をする」
という場面なら、長時間じっくり伸ばして終わるより、身体を動かしながら本番へつないでいく方を優先します。
静的か動的かではなく、目的から考える。
ここをまず覚えておいてください。
+ONE|身体が冷えているとき、いきなりストレッチから始める?
寒い場所や朝一番など、まだ身体が冷えているときは、最初から大きな可動域で動かそうとする必要はありません。
まずは歩く、軽くジョギングする、その場で足踏みするなど、軽い全身運動から始めて身体を温める。
そのあとに動的ストレッチへ移ると、ウォームアップの流れも作りやすくなります。
「ストレッチをしてから身体を動かす」ではなく、
軽く身体を動かす → 動的ストレッチ → 本番に近い動き
という順番で考えてみてください。
目的別|運動前に取り入れやすい動的ストレッチ
ここから実際の種目を紹介します。
ただし最初にひとつ。
ここで紹介する運動は、
「この競技には科学的にこの1種目が最強」
という意味ではありません。
競技でよく使う関節運動や方向を考えたうえで、ウォームアップに取り入れやすい代表例として選んでいます。
最終的には、このあと説明するように競技そのものの動きへつなげてください。
ランニング前|レッグスイング
ランニングでは、股関節を前後方向へ繰り返し動かします。
そこで使いやすいのが、
レッグスイング(前後)
です。

壁・テーブル・手すりなど安定したものに軽く手をつき、反対側の脚を股関節から前後へ振ります。
今回の画像では、
前方30〜45°、後方10〜20°
をひとつの目安として示しています。
ただし、これは全員に共通する正解の角度ではありません。
大切なのは、
骨盤や体幹を大きく動かさなくても振れる範囲。
そこから少しずつ広げることです。
左右10回程度から始めれば十分でしょう。

ランニングなら、レッグスイングで終わらず、そのあと軽いジョグ→少し速い走りへつなげよう。
野球前|ウォーキングランジ・ウィズ・ローテーション
野球は腕だけで行う競技ではありません。
投球や打撃では、
下半身から体幹を通って上半身へ力を伝える回旋運動
が使われます。
そこで今回紹介するのが、
ウォーキングランジ・ウィズ・ローテーション。

前へ一歩踏み出してランジを行い、その姿勢から上半身を前脚側へゆっくり回旋します。
意識したいのは、
腰だけを無理にひねらないこと。
胸郭の回旋も使いながら行います。
左右5〜8回程度を目安に、最初はゆっくり。
股関節と胸郭の動きを使うので、
「下半身+回旋」という野球らしい動きへ近づけやすいのが特徴です。
ただし、これをしたから投球準備が完了ではありません。
その後、
軽いキャッチボール → 徐々に距離や強度を上げる
など、実際の投球へ近づけていきます。
サッカー前|オープン・ザ・ゲート
サッカーでは、
走る、蹴る、脚を横へ出す、方向を変える。
股関節をさまざまな方向へ使います。
そこで取り入れやすいのが、
オープン・ザ・ゲート。

片膝を持ち上げ、その膝を外側へ開いて戻します。
股関節の
屈曲→外転・外旋
を組み合わせた動きです。
体幹ごと大きく回らないようにしながら、左右5〜10回程度。
股関節周囲を動かしたら、
軽いドリブル、サイドステップ、切り返し、ダッシュ
などへ移ります。
サッカー選手を対象としたシステマティックレビューでも、動的ストレッチや活動的なウォームアップを組み込むことで、スプリント・ジャンプなどの急性パフォーマンスにプラスの効果が報告されています。[6]
バスケ前|コサックスクワット
バスケットボールは前へ走るだけではありません。
ディフェンスでは横へ動き、急停止し、切り返す。
さらにジャンプも繰り返します。
そこで今回紹介するのが、
コサックスクワット。

脚を大きく開き、片側のお尻を後ろへ引きながらしゃがみます。
反対側の脚は伸ばします。
通常のスクワットよりも、
股関節を横方向へ大きく使える
のが特徴です。
ポイントは、
曲げている側の膝とつま先の方向をそろえること。
左右5〜8回程度、最初は深くしゃがむ必要はありません。
そこから、
サイドステップ → 軽い切り返し → 小さなジャンプ
などへつなげます。
静的ストレッチ後に低下したジャンプ高が、バスケットボール特異的ウォームアップ後には改善した研究があります。[7]
バレー前|インチワーム
バレーもジャンプが多い競技ですが、バスケとは少し違います。
ジャンプ・着地に加え、
スパイクやサーブなど、腕を頭上へ大きく振り上げる動き
があります。
そこで今回紹介するのが、
インチワーム。

立った状態から前屈して手を床につき、手を少しずつ前へ歩かせてプランク姿勢へ。
そこから戻ります。
これによって、
- ハムストリングス周囲
- 体幹
- 肩周囲
をひとつの連続した動作で使えます。
5〜6回程度、反動をつけずコントロールして行います。
その後、
小さなジャンプ → アプローチ動作 → 徐々に本番に近いジャンプ
とつなげます。
2026年に発表されたバレーボールのウォームアップに関するシステマティックレビューでは、動的・高強度・競技特異的なウォームアップは、ジャンプ・敏捷性・反応時間などで比較的一貫した改善を示していました。[8]
いちばん大事なのは「ストレッチの次」
ここまで5種類紹介しました。
でも、
この記事で一番覚えてほしいのは、種目名ではありません。

え、ここまで覚えたのに!?

大丈夫。名前を忘れても「このあと何をする?」を覚えていればいい。
ウォームアップは、
① 軽く身体を動かす
↓
② 必要な関節を動かす
↓
③ これからする運動に近い動きへ移る
↓
④ スピード・負荷・動きの大きさを上げる
↓
⑤ 本番
という流れで考えます。

ここで重要なのが、
「これからする運動に近づける」
という考え方です。
2026年の国際エキスパートコンセンサスでも、ウォームアップは競技や状況に依存し、一般的な運動と競技特異的な運動などを組み合わせる多層的なものとして整理されています。[5]
なぜ「本番に近い動き」に近づけるの?
たとえば、
これから100m走るのに、腕だけストレッチして終了。
これからバスケをするのに、その場で股関節を動かして終了。
これではまだ本番との距離があります。
本番に近づけることで、
実際に使う関節・姿勢・動作方向・スピード・力の出し方を、本番より低い強度で先に経験できます。
つまり、
身体を温めるだけでなく、「その動きそのもの」の予行演習ができる。
ここがポイントです。
ランニングなら、
レッグスイング→ ジョグ→ 少し速い走り。
野球なら、
回旋運動→ 軽いキャッチボール→ 投球。
バスケなら、
横方向の股関節運動→ サイドステップ→ 切り返し・ジャンプ。
徐々に本番へ近づけます。
動的ストレッチは「本番前にやるもの」というより、“本番へ近づいていく途中にあるもの”と考えると分かりやすいでしょう。
ストレッチをすればケガを防げる?
ここも誤解されやすいところです。

でもストレッチって、ケガをしないためにやるんじゃないの?
ストレッチをすると、
「肉離れしなくなる」
「アキレス腱を切らなくなる」
と単純に考えたくなります。
私自身、スポーツで気になる部位としては、ハムストリングス、膝周囲、アキレス腱などは意識します。
ただし、
「その筋肉をストレッチしたから、その日のケガを防げる」
というほど簡単ではありません。
2026年の国際コンセンサスでも、一部の運動をウォームアップに含めることが長期的な傷害リスク低下につながる可能性はある一方で、ウォームアップによる“その場での急性的なケガ予防”を支持する根拠はないと整理されています。[5]
つまりケガ対策も、ひとつのストレッチだけで考えないことが大切です。
結局、運動前はどうすればいい?
ここまで読むと、結論はかなりシンプルです。


「運動前=動的ストレッチ」だけ覚えるより、もう一段先まで考えるんだね。

そう。何をするか決めたら、その運動に少しずつ身体を近づけていこう。
まとめ|動的ストレッチは「本番への途中」にある
動的ストレッチは、運動前の準備として使いやすい方法です。
でも、
動的ストレッチそのものがゴールではありません。
また、
静的ストレッチ=悪
でもありません。
柔軟性を出したいときには静的ストレッチにも役割があります。
これからパフォーマンスを出したいのであれば、
軽く身体を動かす
→必要な関節を動かす
→これからする運動に近い動きへ移る
→スピード・負荷を上げる
→本番
という流れを意識してみてください。
「今日はどのストレッチをしよう?」
ではなく、
「このあと、自分はどう動く?」
そこからウォームアップを考える。
それが、この記事で一番伝えたいことです。
参考文献
[1] Matsuo S, Takeuchi K, Nakamura M, et al. Acute Effects of Dynamic and Ballistic Stretching on Flexibility: A Systematic Review and Meta-analysis. J Sports Sci Med. 2025;24(2):463-474.
PubMedで確認
[2] Li FY, Guo CG, Li HS, et al. A systematic review and net meta-analysis of the effects of different warm-up methods on the acute effects of lower limb explosive strength. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2023;15:106.
PubMedで確認
[3] Warneke K, Lohmann LH. Revisiting the stretch-induced force deficit: A systematic review with multilevel meta-analysis of acute effects. J Sport Health Sci. 2024;13(6):805-819.
PubMedで確認
[4] Ingram LA, Tomkinson GR, d’Unienville NMA, et al. Optimising the Dose of Static Stretching to Improve Flexibility: A Systematic Review, Meta-analysis and Multivariate Meta-regression. Sports Med. 2025;55(3):597-617.
PubMedで確認
[5] Boullosa D, Gil-Calvo M, Xenofondos A, et al. International Expert Consensus on Warm-Up Protocols for Athletes: A Delphi Study. Int J Sports Physiol Perform. 2026.
PubMedで確認
[6] Hammami A, Zois J, Slimani M, Russel M, Bouhlel E. The efficacy and characteristics of warm-up and re-warm-up practices in soccer players: a systematic review. J Sports Med Phys Fitness. 2018;58(1-2):135-149.
PubMedで確認
[7] Stevanovic VB, Jelic MB, Milanovic SD, et al. Sport-Specific Warm-Up Attenuates Static Stretching-Induced Negative Effects on Vertical Jump But Not Neuromuscular Excitability in Basketball Players. J Sports Sci Med. 2019;18(2):282-289.
PubMedで確認
[8] Mielniczek M, van den Tillaar R. The Effects of Different Warm-Ups on Volleyball Performance. Sports. 2026;14(6):218.
PubMedで確認



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