絆創膏を貼っていた傷が、治りかけになるとムズムズしてくる。経験のある人は多いと思います。
こういうとき、たいていの人は「かゆみ止めを塗る」か「我慢する」の二択で考えます。ネットで調べても、出てくるのは「ヒスタミンという物質のせいです」「保湿しましょう」「かゆみ止めを塗りましょう」あたりでしょうか。
でも、リハビリの現場で傷の経過をずっと見ていると、そこには大事な視点がひとつ抜けている気がしています。
かゆみは、傷の”中”だけで起きているわけではありません。
結論:かゆくなること自体は正常。でも「治ってる証拠」とは限らない
治りかけの傷がかゆくなること自体は、体が治ろうとする過程で自然に起こる反応です。ここは研究でも裏付けがあり、心配いりません。
ただ、「かゆい=治っている証拠」と言い切れるかというと、そこまで単純ではありません。かゆみが強く、長く続くときは、傷跡の状態を一度確認したほうがいいサインでもあります。
さらに、「なぜ盛り上がった傷跡ほどかゆいのか」を調べた論文を読み込んでいくと、そこで示されている関連は、正直そこまで強く言い切れるものではありませんでした。数字だけを見て「盛り上がった傷跡だからかゆい」と断定するのは、論文の中身からしても言い過ぎです。
論文には書かれていないけれど、現場で見てきた感覚で言うと——盛り上がった傷跡は服にこすれやすく、掻いたときも真っ先に摩擦を受けます。その分、かゆみが長引きやすい。 かゆみ止めと合わせて、こすれそのものを減らす工夫も意識してみてほしい。これが今回いちばん伝えたいことです。
論文で分かっていること、分かっていないこと、そしてその先に僕が考えていること。順番に説明していきます。

臨床場面でも経験も知りたいな。
なぜかゆくなる?:治る過程の”ついで”に出る反応
まず前提から。傷が治っていく過程では、体の中でいろいろな物質が働いています。
よく知られているのはヒスタミンですが、実際はそれ一つではありません。神経を伝わる物質や炎症に関わる物質など、複数が同時に動いています。その”ついで”に、かゆみを感じる神経が刺激されてしまう。これが基本の仕組みです(Paul, 2015)。
ここで知っておいてほしいことがあります。1997年には、人の皮膚で「かゆみ」に選択的に反応する神経線維が報告されました。その後、かゆみに関わる神経経路についても研究が進んでいます。
かゆみは単なる「弱い痛み」ではなく、痛みとは異なる感覚です。
つまり「痛くないから軽い」ではない、ということ。かゆみには、かゆみ専用の対処が必要になります。
そして、掻くことはその対処になりません。掻くと一瞬スッキリしますが、あれは傷が良くなっているからではなく、脳が一時的に不快感を鎮めているだけです。傷そのものにはプラスにならず、むしろ皮膚を傷つけて治りを遅らせます(Paul, 2015)。
研究ではどう分かっている?
傷跡が盛り上がっている人ほど、かゆみも強い
傷跡が過剰に盛り上がってしまう状態を、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)といいます。
この盛り上がった傷跡の組織を調べた研究では、神経に関わる物質が濃く見つかること、そして平らに治った傷跡ではそれがほとんど見られないことが報告されています(Crowe et al., 1994)。大きなやけどのあと植皮を受けた患者さん56人を1年間追跡した研究でも、傷跡の盛り上がりが強い人ほど、痛みやかゆみも強いという関連が確認されました(Mauck et al., 2018)。
「盛り上がった傷跡」と「かゆみ」はセットで現れやすい。ここまでは研究で言われている話です。
ただし、これは主に深い傷・縫合した傷・皮膚に張力がかかる部位(胸や肩など)で調べられた話です。ちょっとした擦り傷や浅い切り傷なら、過度に心配する必要はありません。

じゃあ盛り上がってるからかゆい、で話は終わりじゃないの?

それが、この研究をよく読むと、そう単純でもないんです。
関連はある。でも「原因」とまでは言えない
ここは、他の記事ではあまり触れられていない部分だと思います。
さきほどの56人の研究では、傷跡の盛り上がりとかゆみには統計的な関連がありました。
ただし、この結果だけで「傷跡が盛り上がっているから、かゆくなる」と原因まで断定することはできません。
論文を読むときにいつも気にしているのが、この「関連の強さ」です。今回のデータを素直に読むと、傷跡が盛り上がっていること”だけ”でかゆみを説明するのは無理がある。それが正直な受け止めです。
じゃあ、盛り上がった傷跡がかゆいのはなぜなのか。ここから先は研究の紹介ではなく、僕自身がPTとして考えていることです。
きみマロの考え:盛り上がった部分は、こすれやすい
リハビリでは、傷そのものを処置することはありません。触れないように気をつけながら運動を進めるのがPTの立場です。ただ、その分、傷の経過は毎回きちんと見ています。
そうやって見ていると、盛り上がりや赤みが長く残っている傷跡は、傷跡が落ち着くまでに時間がかかっている印象があります。この「盛り上がり」と「色の変化」は、実は研究者が傷跡を評価するときに使う指標とほぼ同じものです。現場の目と研究の評価軸が一致しているのは、それだけ分かりやすいサインだということだと思います。
その上で、物質の話とは別に、もっと単純な理由があると考えています。
盛り上がった傷跡は、皮膚の表面より高くなっています。だから服や寝具に真っ先に触れますし、掻いたときも、その部分に摩擦が集中します。日常的に刺激を受ける回数そのものが、他の場所より多いんです。

新しい靴で靴擦れができるのと同じです。足の中に異常があるわけではなく、当たる場所が高くなっていて、そこに摩擦が繰り返されるから痛くなる。だから絆創膏を貼って摩擦を止めるほうが、理にかなっています。
傷跡のかゆみにも、これと同じ構造があると思っています。

かゆみを”体の中の問題”だと思っていると、塗り薬しか思いつかなくなる。でも、こすれの問題なら、いろいろ工夫ができそうですよね
PTが一人で創傷の処置をすることはありませんが、床ずれの予防などでチームに関わるときは、姿勢や日常動作が皮膚のどこにどんな刺激を与えているかを評価します。体の位置と動きが組織に与える負担を考えるのは、PT・OTがもっとも得意とする領域です。その視点で見ると、傷跡のかゆみは、化学の問題であると同時に、力学の問題でもあると考えています。
夜にかゆくなるのも、あなたのせいじゃない
もう一つ、外側の条件があります。時間帯です。
夜は、皮膚の水分が失われやすくなったり、皮膚温やホルモンのリズムが変化したりするため、かゆみを感じやすくなると考えられています(Lavery et al., 2016)。だから同じ傷でも、昼間より夜のほうがかゆみを強く感じやすくなります。
夜に我慢できずに掻いてしまうのは、意志が弱いからではなく、体の仕組みの問題です。
これを知っておくだけでも、気持ちはだいぶ楽になると思います。そして「夜が危ない」と分かっていれば、夜に備えて対策を打つこともできます。
実際どうすればいい?
冷やす・保湿する・かゆみ止めを使う。ここまではすでにご存じの方も多いと思います。ここでは、それに加えて意識してほしい工夫から紹介します。

こすれを止める
盛り上がってきた部分、服がこすれる位置にある傷は、絆創膏やガーゼで表面を軽くカバーしてください。現場では、こうしてこすれを減らすことで楽になる人を経験します。
理由は3つあります。服との摩擦が減る。無意識に掻いてしまったときのダメージが減る。そして目に入らなくなるぶん、意識が向きにくくなる。
寝るときも同じで、寝具にこすれる位置なら覆っておくほうが安心です。夜のほうがかゆくなりやすい以上、夜こそ対策する意味があります。
ただし、傷の周りが赤く広がっている、熱を持っている、膿が出ているなど感染が疑われるときは、覆う・覆わないを自己判断せず、受診してください。
服・寝具の当たり方を変える
こすれているのが特定の場所なら、そもそも触れないようにできないかを考えます。締めつけの少ない服にする。縫い目やゴムの位置をずらす。寝る姿勢を変える。
地味ですが、刺激の回数を減らすという意味では理にかなった方法です。
冷やす・保湿する
冷やすとかゆみは和らぎます。保冷剤や冷たいタオルを、冷やしすぎない程度に。乾燥もかゆみを強くするので、保湿もきちんと行ってください。
かゆみが強いときは、薬も使う
かゆみが我慢できないときは、かゆみ止めの薬を使ってください。市販薬は一般的な炎症・かゆみを抑えるものが中心で、症状が強い場合や長引く場合は、病院で処方される薬のほうが患部の状態に合わせて対応できます。迷ったら薬剤師や医師に相談してください。
こすれが残ったままだと、薬を塗ってもまたすぐに刺激されてしまうことがあります。できればこすれ対策も一緒に行ってみてください。
やってはいけない対処
- 掻く:一時的に楽になりますが、皮膚を傷つけたり、治りを遅らせたりすることがあります
- 叩く:掻くよりマシと思われがちですが、皮膚へのダメージは残ります
- 熱いお湯をかける:一瞬かゆみは飛びますが、皮膚がふやけて治りが悪くなります
- ステロイド外用薬の塗りすぎ:用法・用量を超えて何度も塗るのは逆効果です
受診の目安
以下に当てはまる場合は、様子を見続けずに皮膚科・形成外科へ。
- かゆみが強い状態が長期間(目安として6週間以上)続いている
- 傷跡が盛り上がってきた、硬くなってきた
- 傷の周りの赤みが広がる、熱を持つ、膿が出る(感染のサイン)
- 出血がひどくなっている、明らかに悪化している
臨床経験:現場で見てきたこと
「掻いちゃダメ」と分かっている患者さんほど、代わりに患部を叩いてしまう。これは現場でよく感じることです。掻かないよう伝えても、通院期間を通して完全にやめてもらうのは、正直なかなか難しい。
中には、40℃くらいの熱いお湯を患部にかけて、かゆみを紛らわせようとする方もいました。その場は楽になるのですが、数日後には皮膚がふやけてしまい、かえって治りが悪くなったケースもあります。
正直に言うと、これは患者さんだけの話ではありません。自分自身、かゆいときについ熱いお湯をかけてしまったり、ステロイドの薬を一日に何度も塗ってしまったりすることがあります。分かっていてもやってしまう。それくらい、かゆみを我慢するのは難しいということです。
そういう経験も含めて振り返ると、結局いちばん効いたのは「覆ってしまう」ことでした。掻かない努力を続けるより、掻けない・こすれない状態を作るほうが、はるかに現実的です。
なお、リハビリの中では直接処置はしませんが、経過の中で傷の状態は毎回確認しています。出血がひどくなっていたり、明らかに悪化しているサインがあれば、その場で医師や看護師に伝えるようにしています。
+ONE:絆創膏でかぶれてしまう人はどうする?
「覆ったほうがいい」と言われても、テープでかぶれてしまう人はいます。むしろ、かぶれによるかゆみを傷のかゆみと勘違いしているケースもあります。
見分け方の目安は、かゆい範囲です。傷そのものより、テープが貼ってあった四角い範囲に沿って赤くなっている場合は、かぶれを疑ったほうがいいです。
その場合は、粘着剤の種類が違う低刺激タイプの絆創膏に変える、テープを使わずガーゼを筒状の包帯やネットで固定する、貼る位置を毎回少しずらす、といった方法があります。それでも改善しないときは、貼るのをやめて皮膚科に相談してください。
FAQ
Q. 「かゆい=治っている証拠」というのは本当ですか? A. 半分は本当です。治る過程で自然に起きる反応なので、かゆみが出ること自体は異常ではありません。ただし「かゆいから安心」とは言い切れません。強いかゆみが長く続く場合は、傷跡の状態を一度確認したほうがいいサインでもあります。
Q. かゆみ止めは市販薬と病院の薬、どちらを使えばいいですか? A. 軽いかゆみなら市販薬で様子を見てもかまいません。ただし強いかゆみ・長引くかゆみは、患部の状態に合わせた薬を出してもらえる病院のほうが安心です。迷ったら薬剤師に相談してください。
Q. 我慢できずに掻いてしまいました。どうすればいいですか? A. まず冷やして刺激を落ち着かせ、清潔を保ってください。そのうえで、また掻いてしまわないように覆っておくのが現実的です。出血や皮膚の損傷がある、赤みが広がる、熱を持つなどの変化があれば受診してください。
Q. かさぶたは剥がさないほうがいいですか? A. 剥がさないでください。かさぶたの下では修復が進んでいて、無理に剥がすと出血し、治りを遅らせることがあります。かゆくて触ってしまうなら、やはり覆ってしまうのが確実です。
まとめ
治りかけの傷がかゆいのは、体が治ろうとしている過程で自然に起きる反応です。そこは心配いりません。
ただし、そのかゆみを長引かせているのは、傷の中の化学反応だけではありません。盛り上がった傷跡は服や寝具にこすれやすく、掻いたときも摩擦が集中する。夜は体の仕組みとしてかゆみを感じやすくなる。こうした「傷の外側の条件」が、かゆみをしつこくしています。
論文には書かれていない部分ですが、こすれを止めること、覆ってしまうこと、服や寝具の当たり方を変えること。これらは薬と対立するものではなく、一緒にできる工夫です。
そして、かゆみが強く長く続くときや、傷跡が盛り上がってきたときは、早めに専門家に相談してください。
参考文献
- Paul JC. Wound pruritus: pathophysiology and management. Chronic Wound Care Management and Research. 2015;2:119–127. DOI: 10.2147/CWCMR.S70360 https://doi.org/10.2147/CWCMR.S70360
- Crowe R, Parkhouse N, McGrouther D, Burnstock G. Neuropeptide-containing nerves in painful hypertrophic human scar tissue. British Journal of Dermatology. 1994;130(4):444–452. DOI: 10.1111/j.1365-2133.1994.tb03376.x https://doi.org/10.1111/j.1365-2133.1994.tb03376.x
- Mauck MC, Shupp JW, Williams F, et al. Hypertrophic Scar Severity at Autograft Sites Is Associated With Increased Pain and Itch After Major Thermal Burn Injury. Journal of Burn Care & Research. 2018;39(4):536–544. DOI: 10.1093/jbcr/irx012 https://doi.org/10.1093/jbcr/irx012
- Farrukh O, Goutos I. Scar Symptoms: Pruritus and Pain. In: Téot L, et al., editors. Textbook on Scar Management. Cham: Springer; 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK586068/
- Lavery MJ, Stull C, Kinney MO, Yosipovitch G. Nocturnal Pruritus: The Battle for a Peaceful Night’s Sleep. Int J Mol Sci. 2016;17(3):425. DOI: 10.3390/ijms17030425
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27011178/ - Schmelz M, Schmidt R, Bickel A, Handwerker HO, Torebjörk HE. Specific C-receptors for itch in human skin. J Neurosci. 1997;17(20):8003–8008.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9315918/



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